公益財団法人未来工学研究所

科学技術政策のための共創型モデリングにBalusを活用


米国ペンシルバニア大学が発表しているシンクタンクランキングの科学技術部門において世界第4位に輝く未来工学研究所。そんな未来工学研究所が手掛けるプロジェクトの一つにおいてBalusを活用していただきました。南の島で開催された学会にて、そのプロジェクトを担当する未来工学研究所主任研究員の田原さんとご一緒することになったので、お話を伺ってみました。

美味しい泡盛を楽しんでいる最中ですが、少しお話を伺ってもよろしいでしょうか?

はい、大丈夫ですよ。何でも答えます。

お食事中にも関わらずインタビューをうけてくださる田原さん

未来工学研究所さんは、どのようなことをやっているのですか?

未来工学研究所は主に科学技術に関する公共的な問題について国などのクライアントからの依頼で調査分析して、提言を届けるシンクタンクです。例えば「どのようにして科学技術を振興すればよいのか?」「科学技術による社会への影響にはどのようなことが考えられるか?」などといったことを扱っています。

そんな未来工学研究所のお仕事でBalusを使ったというのは本当ですか?

本当です。使わせていただきました。

先端的な基礎研究の支援をしている公的な機関を対象に、「ロジックモデル」という手法を導入して事業の評価や改善を行うというプロジェクトでBalusを活用しました。

※ ロジックモデルとは、事業や組織が最終的に目指す姿を実現するためにはどのような活動や成果が必要なのかを体系的に図示したものです。ノードとリンクから構成されるシステムモデルの一種であり、政策や事業を評価するための理論的な手法として開発されました。

なんだかすごそうなプロジェクトですね。

実は、アメリカや欧州を中心に世界の多くの国で、科学技術政策の立案や評価にロジックモデルが活用されています。でも、今回のクライアントはなかなか導入できずにいました。というのも、支援のスタイルが「目的から逆算して必要な研究を決めてから支援する」のではなく「研究を進めるうちに可能性が広がってきて目的につながることを促す」というものだったためです。対象である「先端的な基礎研究」の性質を考えれば、そのスタイルはとてもよい形だと思います。ただし、目的からきっちりと逆算して事業を設計していくロジックモデルの通常の使い方とは相性が悪かったんですね。

熱心に説明してくれる田原さん

そこで、まずは仮説としてのロジックモデルをつくって、それを絶対のものとして固定するのではなく、事業が進むにつれて変化していくものとして運用することにしました。仮説としてのロジックモデルを共通のストーリーとして関係者が持っておいて、プログラムを進めていく。その結果として明らかになったことや得られた成果に応じてロジックモデルをよりよい方向に進化させていく。その過程が組織にとって大きな学びになります。同時に、どのような根拠でどのようにモデルを変化させたのかの履歴が、社会に対する説明資料にもなります。国の機関による政策なので、社会に対する説明責任があるのです。学習のツールにもなるし説明のツールにもなる。そのような形でロジックモデルを使いたかったのです。

ここで他のお客さんによるカラオケが始まってしまう

いいところだったのに(笑)これじゃ聞こえなくなっちゃうね。

明日仕切り直して続きをやらせてください。

翌日

気持ちのいい天気なので外でやりましょう。

はい、よろしくお願いします。

昨日紹介して下さった取り組みの中で、Balusはどのように活用されたのですか?

クライアント(科学研究を支援する国の機関)にロジックモデルをつくってみてと言っても、いきなりはつくれません。そこで、ロジックモデルの方法論に精通している我々と、事業の中身についてよく知っているクライアントの皆さんで、一緒にモデルをつくることになりました。

いつもなら対面式で、模造紙を広げてそこに付箋を貼りながらモデルをつくって終わりです。しかし今回は、昨日説明したように、継続してモデルを変化させていかなければなりません。

でも、いつでも会えるわけではないし、時間調整もなかなか大変だしということで、Balusに目をつけました。対面式のワークショップでつくったロジックモデルをBalusに入力して、議論の続きやモデルの改善をBalus上でやったのです。

Balus上に構築されたロジックモデル

使ってみた結果、どうでしたか?

すごく良かったです。いつでも、誰でもモデルに手を加えられるし、原型のモデルをコピーしてそこから自分なりのモデルをつくってみるということもできました。

クライアント側にすごくやる気のある人がいて、その人がいろいろなパターンのモデルをどんどんつくってくれました。そんな風に自分たちで率先してモデリングしてくれる状況って、これまであまりなかったんですね。コンサルティングの仕事というのは、コンサルタントがつくったものをクライアントが受領するという一方的な関係になりやすいのですが、今回はBalusのおかげで「共創する」という場面を引き出すことができました。これはとても新鮮で面白かったし、クライアントにとっても良い体験だったはずです。

Balus上での活発なコミュニケーション

今後のBalusに対する期待があれば教えてください。

今、リモートでの会議とか仕事をする機会が増えてますよね。意外と会わなくてもできるなと思うことがたくさんあるのですが、Balusがあれば、もっとできることの可能性が広がるなと感じました。

ロジックモデルのようなものは国家による政策だけでなく、地域での町おこしや人口動態予測に基づいた都市計画などにも使うことができます。実際にロジックモデルを使いはじめた地域も出てきています。そのようなときによくあるパターンは、都市部にいる専門家やコンサルタントに委託して、調査結果や提案を受け取るだけというものです。しかし、Balusがあれば、地域の人と専門家が共創しながらモデリングすることができます。これは、住んでいる場所による不利益をなくして、どこに住んでいても同じ知識やサービスを享受することができるということを意味します。そういう社会が実現できるといいなと思います。

最後の質問です。「天空の城ラピュタ」で一番好きな台詞を教えてもらってもいいですか?

あー、なるほど(笑)これ、外したほうがいい?外さなくてもいい?

当然、「バルス」です!

ありがとうございました。

田原 敬一郎 様

未来工学研究所政策調査分析センター・主任研究員

科学コミュニケーション研究所(さくり)・共同代表

専門分野:政策科学、システム論、研究開発評価論