ピンゴルフジャパン株式会社

事業全体を見渡す地図を描く、Balusが導いたDXへのチャレンジ


1959年にアメリカで創業され、カスタムフィッティングに基づきそれぞれのゴルファーに合ったカスタムクラブを提供する「PING」の日本法人であるピンゴルフジャパン株式会社の製品はプロ・アマチュアを問わず多くのゴルファーに愛されています。その高い品質と契約ツアープロ選手の活躍などによって国内でも認知度が高まり、会社の規模もここ数年で急速に拡大しています。

会社の規模拡大とともに立ち上がった新しい試み、「PINGオンラインショッププロジェクト(2022年5月リリース)」について、プロジェクトを支えた皆さんにお話を伺いました。このプロジェクトではレヴィが提供しているサービス「Balus(バルス)」を導入し、課題解決にモデリングをご活用頂いています。部署間が連携してECサイトを構築するというDX/変化への挑戦の中で、どのような課題があったのか、製造業がDXに取り組む上でのポイントや必要な人材、今後の展望など、盛りだくさんの内容となっています。

はじめに、ピンゴルフジャパンさんについて教えてください。

吉原さん(プロジェクト責任者 セールス&マーケティングディレクター)

ピンゴルフジャパンは、お客様一人ひとりに合わせた最適なスペックのクラブを、大量生産ではなくカスタムオーダーで製造しているメーカーです。一本でも多く売ることよりも、一人ひとりのゴルファーに最適なクラブを提供し、最高の結果を生み出す、「PLAY YOUR BEST」を大事にしています。

GEのエンジニアだったPINGの創業者は、自分自身のパターのスコアアップのために、自宅のガレージでパターを自作するところからビジネスを始めました。この一人のユーザー・一人の消費者だった創業当時の視点を大切にし、「PLAY YOUR BEST」をものづくりの哲学として60年以上守り続けています。今はYouTubeなどで客観的な性能測定データが公開され、本当によいものであれば誰かが見つけて広まっていきますよね。その中でも、「確かにPINGのクラブはまっすぐ飛んでいくよね」と評価されて使い続けてもらいたいです。そのために、DXによってシステムと組織をうまく連携させて、カスタムオーダーを実現できる体制作りに注力しています。

お客様に合った製品作りへのこだわりを60年以上貫いているのはすごいですね!

今回の「PINGオンラインショッププロジェクト」はどういった経緯で立ち上がったのでしょうか?

吉原さん

アメリカでは3年前からECサイトが構築されており、日本でもやりたいとは考えていました。しかし、さしあたっては口コミでの広がりや契約選手の活躍もあり、経営的にはECの比率を高めていく必要はありませんでした。

一方、直営店やレンタルクラブサービスなどを通じて「お客様とダイレクトに繋がっていくこと」の強みは日々感じていました。ですので、そこにECサイトを加えてお客様との繋がりをより強固なものとし「更なるサービスの向上やお客様からのフィードバックを得たい」という思いから本プロジェクトはスタートしました。

セールス&マーケティングディレクターとして、またプロジェクト責任者として熱い思いを語ってくださった吉原さん

まさにOne to Oneマーケティングの新しい試みだったんですね。プロジェクトを進める上で苦労した点などございましたら教えてください。

吉原さん

前述の通り、経営目線での売上への高い目標を置くことはせず、それよりもお客様への価値提供に重きを置いたプロジェクトでした。売上向上を目指すプロジェクトと異なり、明確な目標/ゴールの設定が難しく、ピンゴルフジャパンとしての望ましい姿は何なのか?メンバーと試行錯誤しながら進めていました。

また、お客様と直接繋がるプロジェクトということで、信頼を失うようなことは出来ません。知見のある外部の力も借りつつ、手堅く慎重に物事を進めていきました。

田原さん(マーケティング部 Webマーケティング担当)

ECサイトの構築は様々な部署、要求、仕様が複雑に絡み合う難しいプロジェクトで、組織間のよりスムーズな連携が必要でしたね。

マーケティング担当として価値を伝えることへのこだわりを語る田原さん

様々な苦労があったんですね。

これらの課題に対して、どのように向き合ってきたのでしょうか?

出渕さん(IT部 アプリ開発担当)

私は途中参加だったのですが、やはり参画当初は「プロジェクトの立ち位置やプロジェクトメンバーとの関わり方が分かりづらいよね」という声が多かったです。自分自身も関わり方を模索していたのですが、まずは自分の思いを関係者にぶつけてそれを元に認識を揃えていこうと思いましたが、認識を揃えていく上で文字だけのコミュニケーションでは中々うまくいきませんでした。

そこで前職で関わりのあったレヴィ社の事を思い出し、Balusを使って情報を可視化/構造化しながら打ち合わせを重ねました。まずは私がプロジェクトに参加したタイミングでコンセプト、目標を吉原とすり合わせを行いました。吉原の考えを図解してコアメンバーとゴールの認識を揃えることから始めました。

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「なぜ今ECをやるのか?」「目標はなにか?」「どう課題解決しようと考えているのか?」などを吉原さんと対話しながら掘り下げ、リアルタイムで構造化を進めていきます(上図は出渕さんが書いたものをインタビュー用に見やすく改変、内容はほぼそのまま)。

吉原さん

私は一人で考えて答えを出すよりも、人と話しながら考えをまとめていくタイプです。なので、出渕がうまく引き出しながら可視化してくれたことで、自分の考えもまとまっていきました。もちろん最初の資料が完璧だったわけではないので、それを元に議論を重ねていきましたね。

出渕さん

コンセプト、方向性が見えてきたあとは、関係者との打ち合わせを行いました。いきなり関係者全員を集めてミーティングを行うのは心理的なハードルが高かったので、業務単位毎に関係者を招集して、プロジェクトで実現したいこと、協力してほしいこと、現在の業務の認識を揃えていきました。

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業務の種類(上図は注文・売上管理)ごとに、ECと関わるステークホルダーをまとめた「コンテキストモデル」やどの担当がどの業務をするのかをまとめた「業務フロー」などを作成し、各担当と対話しながら認識を揃えていった。

それらの工夫が活発なコミュニケーションにつながったのだと思います。熱い思いを持ったメンバーにも恵まれ、より良いものを作るため検討を重ねました。

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便種によって送料が変わるため、どのような便種だとユーザーにとって公平感があり、かつ実現可能性があるのか?などを検討。運営、倉庫、ECという3者で認識を揃える必要があるため、EC側の配送料ロジック(上図左上)を見つつ、送料を商品別にするか、エリア別にするか、などの意思決定をモデルの上で対話をしながら行った(上図右下)。

また、社内だけではなく、外部ベンダーとのコミュニケーションにもBalusを活用しました。Excelを利用してやり取りを行っていたのですが、文字ばかりの資料、Web会議の画面共有で端が切れて見えないなどの問題があり、ベンダーの意図・本質が分かりづらい場面がありました。そこで試験的にBalusでコミュニケーションを取ってみたのですが、使い勝手が良く、正式に採用されコミュニケーションが円滑になりました。

オンラインMTGで外部ベンダーからBalusを使って説明を受けているところ。Excelで書かれていた便種決定のロジックが分かりづらかったため、事前に出渕さんがBalusに書き起こして認識を揃えたところ、外部ベンダー側もBalusを使って説明するようになった。

プロジェクト進行中だけでなく、実はリリース後にも基幹システムとの連携に問題が残っていたのですが、設計部分もBalusで行っていたので問題点の特定が容易でした。迅速な問題解消に役立ったと思います。

Balusが課題解消にお役に立てたようで何よりです!

プロジェクトの中でモデリング/Balusを使うことでどんな変化がありましたか?

吉原さん

考えが可視化されたことでより明確に意図や目的の共有が出来るようになったと思います。また、全体への展開も容易になりました。人それぞれ得手・不得手があるように、私のような「考えを可視化することがそれほど得意ではない」タイプな方でもBalusを利用することで、可能性の幅が広がっていくなと感じました。

出渕さん

ステークホルダーとの認識合わせはどこも課題感を持っていると思います。認識を揃えていくことはもちろんですが、認識が揃っている状態をどう握っていくのかも重要になってきます。それがないと、どんどん発散してしまって当初の目的が薄くなってしまいます。Balusを使うことによって全員が合意の上、同じ目的に向かって収束していくことができるようになりました。まさに「地図」のような役割を果たしてくれたと思います。

中村さん(セールス部 EC業務担当)

プロジェクトには途中から参加したのですが、Balusで情報が可視化されているので「だれが」「どこで」「なにを」やっているといった情報のキャッチアップを非常に楽にすることができました。初期メンバーとの情報ギャップを埋めるという意味でも他プロジェクトでもあったほうがいいと思います。

可視化の重要性について語る中村さん

ふりかえってみてDXを成功させるために必要な人材やスキル、組織などについて何か学びがあれば教えて下さい。

出渕さん

新しいツールを導入することにポジティブな上司がいたことは大きなポイントだったと思います。トップダウン、ボトムアップのプロジェクトがありますが、トップダウンではDX推進・ツールのスキルが必要で、ボトムアップでは上司の理解が必須だと思います。今回はボトムアップでの課題提起で様々な交渉はありましたが、やりたいことを理解して後押ししてくれたことで、前向きにプロジェクトを推し進めることが出来ました。

吉原さん

DXに限らず会社として成長するためには、個々人が成長する意識を持つことが必要です。技術の発展や社会問題など世の中では変化が刻々と起こっている中、現状維持は衰退を意味します。例えばプロスポーツ選手の今年の成績が良かったからといって、現状維持を目指すということはありません。来年も同じポジションを維持出来るとは限らないので多少リスクを負っても改善を続けます。それはビジネスも同じで常に変化にアジャストしていく、また変化していくことを前提としたマインドセットとカルチャーを醸成していくことが成功の可能性を高めていくことに繋がっていくのではないでしょうか。

その中でモデリングやBalusに求める今後の展望はなんでしょうか?

出渕さん

プロジェクト全体のことや、戦略を考えるポジションにいる人たちは、構造化する習慣をつけることで成果を最大化できると思います。

例えば、中村とはプロジェクトの次のフェーズの話を始めていますが、Balusを使ったモデリングはお互いが何を考えているか深く共有できるので、言葉だけのコミュニケーションとは違った価値が見えてきます。

いきなり全体像を構造化することは難しいですが、自分たちが関係している部分から少しずつ一緒に地図を作っていくことが、相互理解を促しパフォーマンスの最大化につながると考えています。

地図という非常に明快なメタファーを出してくださった出渕さん(写真右)と学びにつなげるIT部新人の磯貝さん(写真左)

田原さん

マーケティング部ではよくブレストをするのですが、議論の結果が残らないという課題がありました。Balusは視覚的に残るので、どんどんみんなの意見を引き出すことに注力できます。

EC事業はサイト構築後もブランディングコンテンツとの整合性を図りつつも、相乗効果でのブーストアップが必要となります。より部署間連携の範囲が広がり多様化していくので、Balusなどのツールを活用してそれぞれのメンバーが事業全体の理解を深めながら進めていくことが重要だと思います。

吉原さん

直感で「なんとなくいいな」と思うことがありますが、その根拠を手軽にシェアできるようにしたいです。

例えば、商品カタログひとつでも、「どういうデザインがよいのか?」「誰を起用するのか?」「グラフィックは?」といったことを誰かが決めなければいけません。そういった際に「こっちの方がセンスがよい。ブランドイメージに合っている。」などの直感的な判断をしがちだと思いますが、それだけだとその理由は他の人に伝わりませんよね。

Balusで思考のプロセスを可視化し、こういった判断の根拠を他の人にもシェアすることができれば判断の属人性を少なくしていろいろな業務が効率的になると思います。ツールを使って訓練を積み重ねることで、より自然に説明できる力も身につきますね。マーケティングは個人の好みがよく反映される側面もあるので、上司-部下のコミュニケーションの中でも活用効果が高いんじゃないかと感じました。

レヴィではブレストや議論の残し方に関するフレームワーク・ノウハウを「KATA」としてご提供していますので、ぜひご活用いただければ!

最後に同じようにDXや変化に挑戦している人に向けてメッセージを下さい!

出渕さん

DXなど新しいことへの挑戦は、少なからず課題や困難があるので、挑戦するマインドセットが大切だと感じています。また、会社全体として共感をどう作り上げていくかも非常に重要ですね。

中村さん

プロジェクトを成功させるためには、組織として仕事の幅に制限を設けずに取り組むことが重要です。「PINGオンラインショップ」プロジェクトを通して体制が構築できてきたので、今後も変化を起こしていきます。

田原さん

今はITの転換期。DXは、旧態依然とした慣習をデジタルの力でほぐす活動だと思います。パワーをかけて組織としての理解に至るのか、システマティックに導入に至るのか、是非みなさんの事例を聞かせてください!

吉原さん

変化には当然リスクがあり、リターンはセットですよね。ただ単にリスクを取るのではなく、「変化を恐れず戦略的にリスクを取る」ということを、個人だけでなく組織全体としてマインドを持って連携していくことが大事です。

Balusのような新しいツールの活用は、リスクあるチャレンジを成果に結びつける可能性を感じます。変化に対してチャレンジできる組織は、より成長していくことができると思うし、ピンゴルフジャパンもそうありたい。そういう会社が増えてくれば日本もきっと盛り上がると思っています!

みなさん、本日はDXプロジェクトの中でのBalus活用についてお話聞かせていただき、本当にありがとうございました!

最後にピンゴルフジャパンさんからいただいたモデリング/Balusへの期待をまとめておきます。

  • 言葉だけのコミュニケーションを超えた深い相互理解
  • 事業全体を見渡すための世界地図
  • 思考プロセスを可視化して相互理解を促す
  • ブレスト結果の可視化と記録
  • 「なんとなくいいな」と思う直感の根拠をシェア
  • 上司-部下のコミュニケーションの促進
  • 思考の共有による業務の効率化
  • モデリングの習慣化による構造化スキルの向上

ちなみにBalusでモデリングするとこんな感じになります!