今回取材した大手建設会社は、土木工事・建設工事を主力とする総合建設会社として、開発事業や研究開発にも取り組んでいます。また同社は、会社全体の業務を支えるITインフラの整備から、建設現場でのIT活用による効率化まで、幅広い情報系業務が存在します。
それにも関わらず、同社には他の建設会社と比べて特殊な体制があります。各事業部門が情報部門を一切通さずに、自由にシステム開発を発注できる仕組みになっているのです。この自由度の高さは事業業務の機動性を高める一方で、新たな課題も生み出していました。発注者として、ITプロジェクトに対する適切な知識やスキルを持たないまま、ベンダーとやり取りを行うことで、イメージと異なるシステムが完成したり、見積もりの妥当性を判断できなかったりといった問題が発生していました。
そこで同社が導入したのが、レヴィの構造化思考を取り入れた「ITプロジェクト担当者研修」 でした。マインドチェンジから始まり、発注者として必要な視点や手法を体系的に学ぶこの研修は、参加者から高い評価を得て、継続的な受講申し込みにつながっています。
今回は、情報部門で情報系教育全般を担当する M さんに、研修導入の背景から具体的な効果、さらには構造化ツール「Balus」の活用まで、詳しくお話を伺いました。
M さん:
当社の事業内容については、主力が建設事業ということで土木工事・建設工事がメインになり、その他にも開発事業や研究開発を行っています。
私の所属する部門は、建設会社全体の業務をするための IT インフラを整えるところから、建設工事の現場単体の IT を使った効率化まで、事業に対する IT アプローチを一通り行っている部署です。
私は、情報系社員の教育全般を担当しています。具体的には 3 つの軸があります。まず新入社員に対する教育、次に情報を専門として入社した社員の育成(主に 10 年目まで)、そして全社員に対する IT 教育です。共通するのは、原理・原則を知った上で、役割に合わせて適用するということを実現したいと考えています。
情報を専門として入社した社員の育成では IT スキル標準(ITSS)をベースにしており、IT ベンダーが軸にする体系を採用しています。一方、全社員向けの教育では、デジタルスキル標準(DSS)をベースにした、より発注者目線の内容になっています。
M さん:
当社は他の建設会社と比べて特殊な体制を取っています。システム開発の際、情報部門を通さず各部門が直接発注できるんです。しかし、この自由な体制にもかかわらず、発注者としての教育が一切なく、これが大きな課題でした。
私たち情報部門の社員でさえ、応用情報処理技術者の資格程度の知識でベンダーと対峙しており、完全に独学状態だったんです。
以前は e-ラーニングを導入していましたが、あまり効果的ではありませんでした。例えば「ソフトウェアの品質」というテーマを受講しても、不具合品質ばかりで、実際に必要な「ユーザーの要望をヒアリングしてシステムに反映する」といったユーザー品質を教えてくれるコンテンツはあまりありませんでした。
事業の機動性を重視する現在の体制のメリットを最大化するためには、発注者側の教育が不可欠だと判断しました。
M さん:
典型的なパターンが 2 つありました。
1 つ目はリリース直前に手戻りが発生するというパターンです。部署長からの簡潔な開発指示のみでプロジェクトを進めた結果、完成したシステムが実務に耐えられない不便なものとなり、上層部から厳しい指摘を受けるケースです。依頼の背景やユーザーの真の要求を十分に整理しないまま、上意下達で開発を進めていたことが原因でした。
2 つ目はやるべきことが明確でなく、価格が跳ね上がっているというパターンです。私が他部署のシステム開発相談を担当していた際、見積もりの妥当性に関する相談が頻繁にありました。見積もりは全て一式表記で詳細が不明です。そこから見積もりの妥当性をベンダーに確認すると、当社からの要求仕様の提示不足を指摘されます。詳細な要求を伝えられていないため、不確実な部分をリスクとして価格に織り込んでいるという回答でした。
要するに、上意下達で単純な要望は伝達できているものの、詳細な要求仕様まで整理できていない。希望を伝えた後は全てベンダー任せという状態でした。このような進め方では適切なシステム開発は到底困難です。
そのため、要件を提示して後は任せきりにするのではなく、システム構築に主体的に参画する意識を持ってもらいたいと考えるようになりました。この意識変革が最も重要で、具体的な手法はその後に続くものです。根本で学んでほしいのは、発注者としてのマインドセットでした。
M さん:
候補の探し方は、主にインターネット検索です。加えて業界誌や新聞で他の建設会社の教育事例が紹介された際、そこで言及されている研修会社にもアプローチしました。
1 社目は、新入社員向けプログラミング研修を提供する会社でした。ITSS 準拠の情報系特化研修が得意でしたが、相談すると PMBOK※中心の提案を受けました。内容を拝聴するとベンダー側の開発プロセス管理に重点を置いており、当社が求める発注者向けの上流工程教育とは方向性が異なりました。
2 社目は、別の大手建設会社で DX 教育を手がける会社でした。DX を全面に打ち出していましたが、当社の具体的なニーズであるシステム開発発注者教育から大きく話題を拡張し、経営層向けコンサルティングの提案ばかりだったこともあり、スコープがズレていました。
最終的にレヴィさんを選定した決め手は、当社の要望への適合性と研修設計の柔軟性でした。他社が既存パッケージの提示に終始したのに対し、レヴィさんは当社の求める内容を的確に理解し、カスタマイズしてくれる印象がありました。
当社社員に求める「ベンダーとの適切なコミュニケーション」を、レヴィさん自身が実践していたことも説得力があり、決め手になりましたね。
M さん:
直接的な効果として、事業部門の担当者 2 名がシステム開発案件の担当を命じられた時に、役に立ったと喜んでいた事がありました。研修で学んだ手法を振り替えりつつプロジェクトを進めることができたため、手探り状態を回避できたという報告を受けました。
ただし、実際の案件経験がないと研修効果を実感しづらい側面があります。今後、案件を通じてより深く効果を実感していくものと予想しています。
間接的な効果として、建設事業の主要部署の一つ(約 700 名の大規模部署)から継続的な受講申し込みがありました。初回研修後、受講者の一人が幹部会で研修内容を報告した結果、継続的な受講者確保につながっています。これは研修内容への評価の表れと捉えています。
直近の募集でも、案内開始から 1 時間で多数の申し込みが入るなど、高い関心を示してもらっています。
ただし、真の効果測定には受講者の実業務への関与が必要と考えています。私はシステム開発の相談窓口と IT に関する調達コンプライアンス業務も担当しているため、これらを研修のフォローアップとして組み込むことで、シームレスな効果検証が可能になると考えています。
M さん:
最も評価できる点は、践主体の研修として設計できたことです。先ほどお伝えした事業部門の継続的な受講希望者数に象徴されるように、研修効果を実感した部署が再度参加してくる状況は、内容の有効性を示していると考えています。
正直、研修実施中は、内容が受講者に適切に伝わっているか不安でした。しかし、こうした継続受講という形での間接的に評価頂いたことにより、研修の価値を確認できました。
また、構造化ツール Balus については、研修外でも高い評価を得ています。受講者から、現在業務で使用している他ツールと比較して Balus の方が使いやすいという意見をいただきました。
特に振り返り作業において、受講者が主体的に意見を出し、それを構造化してまとめる過程で、Balus が非常に効果的であることを実感しました。今後、社内での Balus 拡大を検討しています。
M さん:
Balus の効果的な活用には、構造化スキルを持つ専門家の併用が重要だと考えています。構造化の価値を理解している講師が Balus を使って研修を行い、その効果を受講者が体験する。社内で自主的に使用する段階では、どうしても活用レベルが下がってしまいますので、展開についてもお力添えをお願いしたいです。
また、シンプル故に機能追加の要望が出やすいのが Balus の特徴だと思いますが、本質から逸脱した高機能化は不要だと考えています。Balus は思考支援ツールとしてのシンプルさに価値があり、ツール普及自体が目的ではなく、思考力向上が真の目的です。適切な状況で使用した時に、非常に高い効果を発揮するツールだと認識していますので、そこの一線は死守していただきたいです。
最後に、レヴィさんの姿勢について最も感動しているのは、親身な対応です。こちらの意欲を引き出し、協働することで能力向上を図ってもらえる期待があります。引き続き前向きな姿勢での取り組みを継続していただければと思います。